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怪談のススメ

転校生は生ける屍?  1

 古今東西、特定の人の目に見えないモノの話を記録した文献は数多くあります。

 それらを非科学的だとか迷信だと一笑に付す事はいくらだって出来る。
 しかし、自分の目に見えているものだけが真実だとどうして断言出来ましょう。

 さて、これはここだけの話なのですが、世の中には、逆に、『見えていないからこそ、見えている』……と、そういう場合もあるらしいんです。

 見えていないから見えている……なんて、それは一体どんな状態なんでしょうねぇ?



***

 
「転校生?」

 そう言って、山田理々子は首を傾げた。
 ツーサイドに結わえられた髪がピコンと揺れる。

 高校生にしては、少し幼すぎる……と、言われる事もあるのだが、昔から馴染んでいるし、サイドから流れ落ちた髪が目にかからないという点も相まって、なかなか変えるまでに至らない髪型だ。

「そう!この時期に珍しいよね。実はさ……」

 情報通な友人は、そんな理々子に、更にズイッと 身を寄せて、少しだけ周りを見回して気にする素振りを見せた後、秘密を打ち明けるような仕草で告げた。

「何でもその子、重い病だったらしくって、長い間その権威のお医者さんがいる外国で治療を受けながら生活してたんだって。で、ようやく手術に成功してこっちに戻ってこれることになったらしいの」

「へぇ、そうなんだ」

 理々子の軽い相づちを気にした風でもなく、友人は早く先を話したくてしょうがなさそうにウズウズと体を揺らしている。

「それでね、その子は男の子なんだけどね……」

 その割りに、そこで彼女はもったいつけるように長く間を取ったので、その後に言う言葉が、友人にとっては、この話の一番の肝なのだなと理々子にも分かった。

「その子がなんと、超美形なの!」

 先ほどまでの秘密な内緒話はどこへいったのやら、友人は遂には椅子の上に立ち上がり、高らかと宣言する。
 当然、周りのクラスメイト達が何事かとこちらを見るが、彼女の顔を確かめた途端にいつものことかと納得した顔をした。

 一番、感情が昂たかぶったところで、理々子の友人が叫び声をあげるのは、最早、クラスでは周知の事実だった。
 理々子自身も、気にせず彼女との会話に戻る。

「美形って宣言するからには、転校生の顔を見たの?」

「うん、バッチリ」

 指で綺麗なVの形を作って繰り出し、友人は笑う。

「どこで?」

「さっき、職員室で。数学の教科担に呼び出し食らった時に」

 10回連続で課題を提出し忘れた末に呼び出されたらしい。
 転校生の情報その他も、その時に、偶々(たまたま)、話を盗み聞いて仕入れたものだそうだ。

「まさに不幸中の幸いってやつだよね!」

 誇らしげに言う友人に「それは違うと思うんだけど……」と、理々子は心の中で突っ込んだ。

「あと10分もすればホームルームも始まるだろうし、その時に答えは解わかる訳だけど……心して刮目(かつもく)せよ! ほんと、ガチでカッコいいから!」

「はいはい」

 理々子も、別に、友人の審美眼は疑っていない。
 しかしながら、如何いかんせん、彼女は気が多いほうであり、また、彼女のすすめる『美形』が、理々子好みでない事も、今までに多々あった。
 だから、この場は『話、半分ぐらいで聞いておく』が、正解なのである。

 そんな理々子の反応に、友人は、「絶対後で驚くんだからね~、驚いても知らないからね~」と、唇を尖とがらせ、少々、不満気だ。

 それを見ながら、「しょうがないなぁ」と、笑った理々子だが、まさかこの後で本当に驚く羽目になろうとは、この時、思っていなかった。

 ただし、それは、友人の言った通りに、転校生が美形だったから……という訳では無い。


「闇尾(やみお) 守(まもる)です。どうぞ宜しくお願いします」

 そう挨拶をした転校生の姿を見て、理々子の表情は凍り付いた。

 先ず、着ている黒い制服は、理々子たちの学校指定のブレザータイプとは違う。だが、それは別にいい。
 新しい制服が間に合わなかったとか、色々、事情があるのかも知れない。
 問題は、『それ以外』だ。

 制服と同じく黒い髪は、濡れ羽色(ぬればいろ)なんてレベルを通り越し、まるで、さっきまでずぶ濡れになていたみたいにペタリとしており、肌は血の気が全く感じられず、青白い。
 瞳は、虚ろな穴の様に何処までも光や生気が無く、恐らく笑みを浮かべているのだろう唇は、力が入りきらない歪な形を描いている。

 その姿はまるで『生きている人間に見えなかった』。

 他人(ひと)の容姿を、特に否定的な意味で、どうこう批評してはいけない事は理々子にだって判わかっている。
 分かっているが、それを通り越してもやはり彼の姿は生きている人間のそれには見えない。

 保存処理(エンバーミング)が施されている分、棺桶(かんおけ)の中の人間のほうがまだ生き生きとして見える位なのだ。

 こんな不気味な者、理々子は、今まで遭あった事が無い。

 そうやって注視していたのがいけなかったのだろう。
 不意にこちらを向いた闇尾(やみお)守(まもる)と、理々子は、目が合ってしまった。

 驚いて咄嗟に目を逸(そ)らせる。
 同時に飲み込んだ息が喉の辺りでヒュッと音を立てるが、周りの人たちは誰も気付かない。

 というよりも、先ず、転校生に異常さと違和感を抱いているのは、教室内でも自分だけの様だった。

(なんで……)


 その事に理々子は戸惑うが、冷気に似た視線を感じて再び闇尾を見る。
 すると、こちらを注目したままだった闇尾の瞳がスッと細められた。

 それを確認した理々子の背を、闇尾の視線と同じく冷たい汗が伝って行った。

 

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